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L'enfant d'en haut シモンの空/姉の秘密

フランス・スイス映画 (2012)

ケイシー・モテ・クラン(Kacey Mottet Klein)が、同居している姉を、日々の盗みで養っていくという切ない物語。ケイシーの映画初出演となった『Home(ホーム/我が家)』と同じユルシュラ・メイエル監督の第2作。同じ監督なので、視点が似ている。そこに描かれているのは、ショッキングなまでの不条理。本作では、男遊びに余念のない姉を、弟のシモンが、常習的に盗みを働いてまで、なぜ養わなければならないのか? ほとんどあり得ない状況設定だと思う。映画はクリスマス・シーズンから始まるので、ひょっとしたら、弟は、いつもは学校に行っていて、盗みはホリデイの間だけなのかもしれない。そして、姉は、いつもは曲がりなりにも働いて生活費を捻出しているのかもしれない。そうあって願いたいと、つい思ってしまう。シモンはゲレンデでスキー板やゴーグルや手袋を盗んでは収入源としているが、一年の大半はスキー場は閉鎖されていて、盗みだけでは生活できないからだ。しかし、『Home』を見ても、この監督にとっては、映画で描写している「瞬間」の問題提起だけが重要で、「背景」は全く無視してかかるタイプなので、そんなことはいらぬ心配なのかもしれない。『Home』も最後の最後に希望らしきものが見えた。この映画でも、ラストは希望らしきもので終わっている。なお、原題を直訳すれば、『上にいる少年』、意味が通じるように訳せば『ゲレンデにいる少年』となる。日本語題名の『…の空』の意味はチンプンカンプン。そう言えば、『ボスニアの青い空』という意味不明の映画もあった。

スイスのヴァレー州にあるスキー・リゾート。クリスマスはシモンにとって書入れ時。ロープウエイを2回乗り継いで山頂まで行き、防寒服、友だちから依頼のあった有名メーカーのスキー板から、夕食のサンドイッチに至るまで、あらゆるものを盗む。誰も彼もがスキーに熱心で、盗みは気付かれない。スキー板を持たずに上がり、サイズの違うスキー板を2組持って下山すれば、変に思われそうなのだが、そうではないらしい。シモンの住んでいるローヌ川沿いの河谷(標高500m程度)では、クリスマスというのに残雪が僅かに残るのみ。暖冬の影響か? シモンは、1DKのアパートに帰ると、姉とサンドイッチを分け合う。姉のために盗んできた上等の防寒服も進呈する。しかし、姉はその日の夜も男遊びに出かけ、クリスマス・イヴの夜もシモンは一人ぼっちだ。一方で、シモンの「商売」は大繁盛。地元の子供たちだけでなく、新品のスキー板をまとめて買ってくれる「顧客」もでき、懐具合はとてもいい。そんな時、姉が熱を入れ出したのが、BMWの男。アパートにも招き入れ、セックスし、男にはシモンが一時的に来ていると嘘をつく。1DKで寝室は1つしかないので、何も疑われない。シモンが姉と一緒に男のBMWに乗せてもらった時、あまりの疎外感から、つい「これは姉さんじゃない、母さんだ」と男に打ち明ける。男は、子連れの年増と付き合う気などさらさらないので、その場で車から追い出される。喧嘩しながらアパートに帰った2人。その夜、シモンは母の部屋をノックし、「いっしょに寝ていい?」と頼む。受け入れてもらえないので全財産の180フラン(2012年の年末で17000円)を渡し、ようやく母の温もりを感じることができたが、母からは、「要らない子だった」という冷たい言葉が投げられる。母は、シモンが眠るとすぐにお金を持って出て行き、翌朝、泥酔し無一文で野原で寝ているところを発見される。お金のないシモンは、その日、手下の子供を連れて盗みにでかけるが、失敗して、ブラックリスト入り。ゲレンデには二度と行けないので、今まで盗んだものを国道の道端で売ろうとするが誰も買ってくれない。そして春、スキー・シーズンは終わりを迎える。最後に一度山頂まで行くシモン。ひょっとして、出稼ぎに連れて行ってもらえないかと思ったからだ。しかし、幼すぎて笑われただけ。ロープウエイはその日閉鎖され、山頂で夜を過ごしたシモンは途中まで歩いて降りる。そして、河谷に降りるロープウエイに乗り込む。ロープウエイが途中まで下りた時、心配して上がってくる母とすれ違う。

ケイシー・モテ・クランは、この映画で4つの賞にノミネートされ、3つ賞を獲得している。『Home』では、スイス映画賞の新人賞だったが、本作品で見事に主演男優賞を射止めている。


あらすじ

画面は、いきなりシモンが、バッグから取り出した盗品のゴーグルをチェックしている場面から始まる。まだ盗み足りないのか、フェイスマスクで目だけ出し、ヘルメットをかぶった「見破られにくい」スタイルで出動する(1枚目の写真)。これで、ゴーグルをかければ、誰だか全く分からなくなる。レストランの外に設けられたジャケットを掛ける壁を漁るシモン。気に入ったグレイのジャケットを、周りを見て(2枚目の写真)、素早く抱え込む。トイレの個室に入り、便器に腰掛けて盗品を整理。同じアパートに住む友だちに頼まれたスキー板の色とデザインを、渡された紙で確かめる。外へ出ると、スキー板の一時置き場を捜すが見つからない。あきらめてゴンドラで下のゲレンデに向かうが、その直前に別のスキー板をさっと手に持つ。何も持っていないと怪しまれるからだろう。山頂とゲレンデを結ぶゴンドラは超満員〔上りが満員なのは分かるが、下りがなぜ満員なのか?〕。窓の外は白銀の世界だ(3枚目の写真)。ゲレンデのスキー板の一時置き場で、目的の板が置かれるのを確認。持ち主が去るとすぐに頂戴してローヌ河谷に降りるゴンドラ乗り場に向かう(4枚目の写真)。大きさの違うスキー板を2組持っているのは、不審を招きそうな気がするが… 日中にゲレンデを去るスキー客など誰もいないので、ミニ・ゴンドラを独り占め。中で、さっきくすねたサンドイッチでランチを楽しむ。やがてローヌ河谷が見えてくる(5番目の写真)。因みに、この映画のロケ地は、ヴェルビエ(Verbier)、および、周辺のヴァレー州とされる。写真を見ると、上の方にローヌ川が流れ、ゴンドラは直接谷に向かっている。ヴェルビエは山腹にあるリゾートなので、このシーンにあるのは別の場所だ。私は、この付近、ヴェルビエを含め何度も行ったことがあるので、場所を特定しようと試みたが、河谷まで直接ロープウエイが下りている場所は、下流からガンペル(Gampel)、メーレル(Mörel)、ベッテン(Betten)、フィエシュ(Fiesch)の4ヶ所しかなく、駅舎の形、ゴンドラの大きさ、ロープウエイが2方向に出ていること、地形や道路形状の4つが合致する場所はなかった。ロープウエイを降りたシモンは、駅舎の横のロッカーで着替えをする(5枚目の写真)。12月末だというのに、寒くないのだろうか。なお、シモンの上に映っているケーブルが、もう1本のロープウエイ。シモンは「戦利品」を橇に乗せて、アパートまで延々と引きずって行く(6枚目の写真)。最後は、国道9号線を渡れば、12階建てのアパートはすぐ目の前だ。9号線はレマン湖からシンプロン峠に向かう幹線道路。近くには、スイスとイタリアを結ぶ幹線鉄道も通っている。少しくどくなったが、シモンの1日の行動パターンを知る上で重要だと思ったので、一連の流れを紹介した。
  
  
  
  
  
  
  

アパートに戻ると、スキー板の調達を頼んだ友達が待っている。一目見て「わぁー」と歓声を上げる。「Speed Course TIだ。欲しがってたやつ」。ディナスターのSpeed Course TIは、選手用の次のランク。日本で買えば10万円ほどの板だ。シモンはスキーブーツに合わせて、ビンディングを調整してやる。全部済んでお金を受け取るシモン。幾ら受け取ったのかは分からない。別れ際に、「おい、ジュリアン、僕のことを話しといてくれよ。どんなブランドでも手に入れる。ヘルメットやゴーグルもだぞ」と宣伝も忘れない。姉が帰ってくる時間となり、バス停まで迎えに行くが、姉は乗っていない。待っていると、1台の古いゴルフが向かい側で停まり、姉が乱暴に車から出てくる。そして、「さっさと行けよ! くそくらえ!」と怒鳴る。かなり酔っ払っている。途中に生えている樅の苗木の前で、「見ないで」と言って小便までする。そして、「ボスと やり合っちゃった。あんなクソみたいな仕事、うんざり。もう働くもんか」。「次は、何するの?」。「さあね」。アパートに着くと、シモンは缶ビールを開け、一口すすってから姉に渡す。夕食は、シモンが盗んできたサンドイッチだ。山ほどある。シモンが選んでいると(1枚目の写真)、先に食べた姉が、「ゲテモノじゃない! 何よこれ? クソみたいな味。ムカつく。人間の食べ物じゃない」。シモンも、「ホント、ひどい臭いだ。きっとオランダ人のだ」。オランダ人には、えらく失礼な言い方だ。以前、紹介した『Pokhoronite menya za plintusom(僕が死んだら幅木の裏に)』で、「オランダのチーズだ。ロシアのは嫌いでね」という台詞があった。ここでは、オランダ製のチーズを褒めている。姉が、シモンに「それ何?」と訊き、「サーモン」と答えると、「厚かましいわね(gonflé)。一番いいの取って。味見させなさい」。「やだよ」。そして始まる取り合い。床の上での取っ組み合いだが、救いは2人がじゃれ合っていること。それが終わると、シモンはバッグからジャケットを取り出し、「あげる。さあ。プレゼントだ」と言って姉に渡す。「私に? 危険じゃなかった?」。「上じゃぁ 誰も気にしない。すぐ 買い直すだけ」(2枚目の写真)。かっこ良くて、最新の素材のジャケットに、姉も満足げだ。
  
  

クリスマス・ツリーをタダで調達するため、シモンが樅の苗木を切っている。横でタバコを吸いながらイライラして待つ姉。「どう(Ça va)、できる?」「早くやって」「何待ってるの?」。シモンが切るのをやめたのは、その木が、お昼に姉がおしっこを掛けた木だと気付いたからだ(1枚目の写真)。姉は、「じゃあ、隣のを切れば」。しかし、鋸の歯が丸くなっていてなかなか切れない。ようやく切り終えて、2人で駐車場まで来ると、そこに、古いゴルフの男がやって来る。しばらく話し合った後、姉は戻って来ると、「外の空気を吸いたいって」。「あいつバカだって 言ってたろ」。「それに、クリスマスが大嫌いだし」。「いつ戻るの?」。「すぐ済む。それに、何とかやれるでしょ。大きいんだから」(2枚目の写真)。シモンは1人でアパートに戻り、着ている物を洗濯機に入れると(3枚目の写真)、洗濯機が回っている間、スキー雑誌をたどたどしく読み上げている。13歳程度にもなって、これほど字が読めないということは、学校にも満足に通っていないのか?
  
  
  

翌朝になっても姉は帰って来なかった。朝一番でやって来たのは、昨日スキー板を渡してやった友達。板が真新しくて困るというのだ。板を中古に見せるためには、意図的に傷付けないといけない。シモン:「自分でやれ」。「ううん、できない」。「こんなことするのクソなんだぞ。ムカつくな」と言いながら、お客なので、ドライバーで滑走面に傷を付けていく(1枚目の写真)。結構、力の要る作業だ。「見切り品に見えるよう、こっちにも」と頼む友達に、「代りにパンの皮でも かっ払ってくりゃよかった」。川沿いの小さな丘に雪が残り、地元の子供たちが大勢遊んでいる。そこにシモンが「特売品」を橇に載せて現れる。どっと集まり、列を作る子供たち(2枚目の写真)。シモンが、どうやって調達してくるかを知ってか知らずか、いい物を安く買えるので人気があるのだ。最後になって、弟を連れた子がやってきて、「こいつに手袋を。手が冷え切ってる」と話し、「2フラン」(190円)と言う。「4フラン。2フランは今すぐ」(3枚目の写真)。「ボリすぎ!」。「このパスも買わなきゃいけなかった。幾らしたか知ってるか?」。
  
  
  

シモンは、さっそく山頂まで上がり、スキー板を2組盗み、それをロープウエイの駅の外壁の柵内に隠そうとして(1枚目の写真)、レストランの従業員に見られてしまう。2組目は隠さず、もじもじするシモン。そのうちに従業員は姿を消した。2組目を隠そうと、シモンは、立入禁止のドアの隣のドアから、駅舎内に忍び込む。適当にドアを開けると、そこは貯蔵庫。中に新品のスキー板が何組も立てかけてあり、やったと喜ぶ間もなく、電気が消され、ドアが閉まり、鍵を掛けられる。ドアをドンドン叩き、「誰かいる?」と叫んでも、返事はない。仕方なく、座り込んで待っているうち、ドアが開き、懐中電灯で顔を照らされる。英語で「立て」「来い」と呼ばれ、シモンが寄って行くとフェイスマスクをむしり取られ、「ここで、何を探してる? ここで何してる?」と詰問される。この男、さっきスキー板を隠したのを見ていた男だ。偶然とは思えないので、シモンの後をつけてきたのだろう。シモンは黙秘する。しかし、首にかけていたパスに「シモン」と書いてあったので、名前が分かってしまう。「サイモン、ここで何してる? 何を探してる?」。それでも、シモンは答えない。男は、シモンの持ち込んだスキー板を指し、「お前のか?」と訊く(2枚目の写真)。「そうです」。男は、板を床に置き、「乗れ」「合わせろ」と命じ、シモンのブーツを金具に合わせようとするが、当然合わない。男は、「問題があるようだな。こっちはこれだけ。お前の足はこれだけ」と手で大きさの違いを示し、「本当にお前のか?」「お前のなのか、サイモン?」と糾弾する。「違います」。「違う… どこで手に入れた? お前、盗んだな?」。「そうです」。「お前は、チビ泥棒だ」「お前、盗んだ。この 小せがれめ! そうだな?」(3枚目の写真)。「盗んでどうする、まだガキだろ? なぜ盗む?」。「分からない… 物を買うため」。「物? どんな物だ? おもちゃ? 下らんDVD? ビデオ・ゲーム?」。「違います。食べ物、トイレットペーパー、牛乳、パスタ、そんな物です」。「トイレットペーパー。俺をバカにする気か? まじめか?」。「はい、まじめです」。「親はどうなんだ? 金がないのか?」。「両親はいません。姉が1人だけ」。「どこに住んでる」。「下に… 町の、大きなタワー」。同情して言葉を失った男に、シモンは、「お金… スキー板のお金、下さい。分かりますか?」とずうずうしく訊く。男は「パスタ」と言うが、シモンは「スキー板のお金、下さい」とくり返す。「ほら、持ってけ。ノエルだ」とパスタを投げて寄こし、「出てけ」という男。「それはダメです。困ります。スキー板のお金、下さい。分かりますか? お金… スキ板ーのお金」。必死のシモンに、男も折れて、「幾らだ?」と訊く。シモンがニヤリと笑い、交渉成立。イギリスからの出稼ぎ労働者との、英語とフランス語の混ざったやりとりだ。その夜は、クリスマス。しかし、昨日から、すっと姉は帰ってこない。シモンは、部屋に置いてあったツリーをベランダに放り出す。
  
  
  

翌日、山頂に上がると、そこには英語を話す子連れママがいる。母親のいないシモンは、何となく惹かれて、スキー板の付け方を注意する。「きつくしないで。留め金を締めすぎると、血流が悪くなるから」。そして、滑るルートを教えると、手袋を脱いで手を差し出し、「初めまして、ジュリアンと言います。お子さんと同じ名前です」。そして、「さようなら」と別れる。一家との最初の出会いだ。次いで、盗んで隠したスキー板を売ろうと、昨日の従業員を呼び出す。仕事中でなかなか成功しないが、シモンもお金が欲しいので必死。ようやく休憩時間に、誰もいない雪原に呼び出す。そこに穴を掘って、スキー板を4本隠してあるのだ。雪に足を取られながらやって来た男。「見失ったのか? こんなトコじゃ、見つからんだろ」。シモン:「運ぶのが大変だったかから。寒かったし。スキー板を どうするんです?」。「イギリスに持ち帰る。高く売れる」。「イギリス? いい商売だね」。「俺も、お前みたいに トイレットペーパーやらパスタが要る」。その間に、シモンが隠しておいたスキー板を掘り当てる。「やった、見つけた! 見て。4組ある。きれいだよ。触って」。「みんなこんな風か?」(1枚目の写真)。「これは何だ? こんなのに 金を払わせるのか? ダメだ」。「僕のに するよ」。そして、「今、払って」と請求する。「3組分だぞ。こいつに払う気はない」。無事売却が済んで、ローヌ河谷に下りて行く誰もいないゴンドラの中で、お金を数えるシモン(2枚目の写真)。スキー板3組は140フラン(13000円)で売れた。シモンは満足そうに目を閉じる。シモンがゴンドラを降りると、いきなり姉が「シモン!」と叫ぶ。道の反対側のカフェの前でうろうろしている。シモンは、着替えもできず、大急ぎで姉のもとへ。姉:「会えてホッとした」。シモン:「ここで、何してるの?」(3枚目の写真)。「全部 失くしたの。鍵まで」。「着替えてこなくちゃ」。「ダメ」。「どうして?」。「お金 払えなくて」。「何 食べたの?」。「サンドイッチとコーヒー何杯か」。それを聞いて、「払ってくる」と店に向かうシモン。「タバコも欲しい?」と訊く。「とっても」。世話の焼ける姉だ。支払いが済み、着替えをしていると、ポケットから出した札束を目ざとく見つけた姉が、「そこに 幾らあるの?」と訊く。話題を逸らすシモン。「たくさん持ってる みたいね。スキー板は、儲かるんだ。それ、幾らするの?」。「新品で? 留め金付きで1200か1300」。「そんなに? 幾らで売るの?」。「この板なら、200は かたいな」。考え込む姉。
  
  
  

アパートに戻り、スキー板の手入れを始めるシモン。イロハを教えながらの実演だ。アイロンを手にし、「ウールの温度にして」。アイロンの底にワックスを押し当て、「こんな風に、溶かして数滴落とす。板の全体に… こうだよ」「穴は全部ふさがないといけない」「ほらね(Voilà)」「お尻の皮膚みたいに 滑らかに。滑らかなほど高く売れる」「やってみて」(1枚目の写真)。しかし、タバコを吸いながら始めた姉は、アイロンを板の上に置くわ、タバコの灰は落とすわ、ちっとも真剣にやろうとしない。そうこうしているうちに、下からクラクションの音が聞こえてくる。窓から覗いた姉は、「行かないと」と言い出す。「どこへ?」。「行かないと。聞こえたでしょ」。「作業中だ。まだ終わってない」。「あんた ボスじゃないでしょ。明日、終わらせるわ」。そして、「イヤだ。ワックスの臭い」と文句たらたら。その上、言うに事欠いて、「前貸ししてちょうだい」。返すつもりなどないのだ。シモンがお札を1枚渡すと、「出し惜しみしないで。これっぽっちじゃ何もできない」。シモンは、もう1枚取り出すと、姉の頭の上で振ってみせ、「いつ帰る? 何時?」と訊く(2枚目の写真)。諦めて姉が行こうとすると、「いいよ、あげる」と言って渡してやる。これ以上ひどい姉は、映画で見たことがない。姉は、下で待っていた赤いBMWの男と、どこかに消えて行った
  
  

翌日、ゲレンデでスキー板を物色するシモン。昨日遭った母子連れがオープンカフェにいるのを見つけて寄っていく。「ハロー。ジュリアンです。分かりますか?」。「ああ、ジュリアンね、『きつくしないで』の。一緒に いかが?」。「ええ、ありがとう」。「お腹 空いてる? 遠慮なく どうぞ」。「ありがとうございます」(1枚目の写真)。この映画で見せる、一番幸せそうな表情だ。切なくなる。「スキー、楽しいですか?」。「ええ、とっても」。「あなたは どう、ジュリアン? あなたも スキー、好き?」。「ええ、大好きです」。「一人だけなの?」。ここで、シモンは嘘をついてしまう。「ええ。僕の両親はホテル 持ってます。とっても大きいホテル。とても忙しいんです。分かります?」(2枚目の写真)。「お友だちや、兄弟はいないの?」。「いいえ、一人だけです」。最後の部分だけフランス語だ。この嘘は、後で大きな問題となる。その夜、シモンがキッチンのベッドで寝ていると、姉がBMWの男を連れ込む。そして、「これ、あたしの弟。ここに しばらく泊まってるの」と教える。紹介の仕方もひどいが、中学生の子を1DKのキッチンに寝せている姉の対応もひどい。これから何が起きるか分かっているので、シモンはタバコのフィルターを折り取って、耳栓代りにする。定職もなく、男遊びにしか興味のない姉。
  
  

シモンは、山頂の作業員の専用区画に入って行き、洗面所にいる男に、いきなり「要るものないですか、サングラスとか?」と訊く(1枚目の写真)。前の男と違い、英語が通じない。「何だ? 何を言ってる?」。「何か要るものはありませんか? サングラス、ゴーグル、手袋とか?」。シモンの「商売」は大繁盛。売るのは小物ばかりだが、安いのでよく売れる。中には、「どこで見つけたって言ったっけ?」と疑う男がいて、「デスカトージュ(在庫処分セール)で」と誤魔化す。サングラスを欲しいと言った男は、「晴天用、曇天用?」とシモンに訊かれ、「晴天」と答えたまでは良かったが(2枚目の写真)、15フランを10フランに強行に負けさせた。一番タチの悪い男は、サングラスを持ち逃げしようとし、シモンに「ちょっと、タダで持ってかないで」と言われると、「俺に言ってるのか? ここに泥棒がいるとしたら、それはお前だ。身体検査するか?」と開き直る。一番せこい。
  
  

商売が一段落し、シモンは、オープンカフェでランチをとりながら、サングラス姿で休んでいる(1枚目の写真)。その時、「やあ、座ってもいいか?」と声がかかる。テーブル1つを占拠していて、人で一杯なのだ。「ええ、もちろん」と食べ物を寄せるシモン。「スキーは楽しいですか?」。「ああ、とてもな。天気も最高だ」。「パウダースノーは魅力ですか?」。「パウダー? それしかないな」。そして、「荷物を見ててくれるか? すぐ戻る」。「ええ、喜んで」。せっかくのチョコレート・アイスを無駄にして、男の荷物を盗んで逃げ出すシモン。しかし、男は本当にすぐ戻って来る。そして、「おい、俺の荷物を返せ!」とシモンを追いかける。大人の足にはかなわないので、雪の上に組み敷かれてしまう。男は、「俺の物をどこへやった!」と、シモンのバッグの中味を雪の上にぶちまける。それでもサングラスが見つからないので、シモンの襟をつかんで頬を何度も叩き(2枚目の写真)、ジャケットに隠してあったサングラスと手袋を奪い取って、去って行く。シモンは、トイレに行き、鼻血を出した顔で悔しがる(3枚目の写真)。泥棒も悪いが、サングラスと手袋を盗まれただけで、少年に対する暴行傷害は行き過ぎだろう。アパートに戻り、上半身を点検するシモン(4枚目の写真)。そこに姉が帰ってくる。シモンの顔を見て、「どうしたの?」と訊く。因みに原文は「Qu'est-ce que t'as fait?」。フランス語は、文字数の割に発音数は少ないので、「ケスクタフェ?」の6文字にしかならない。昔、大学で習った時は、驚いたものだ。シモン:「落ちた」。姉:「落ちた? 殴られたんでしょ? 上で、捕まったのね? 危険はないって言ったじゃないの」。シモンは、打ち身で上半身が痛い。「そっとやって」と頼む。
  
  
  
  

翌日、アパートの前。先日シモンが修復して新品に近づけたスキー板を、姉が町まで売りに行く。やったことがないので、「幾らで売るの?」と不安げだ。「完全に滑らかにしたから、最低でも200。だまされないでよ!」。欲を出した姉。「300じゃ どうかな?」と訊く。「大回転用の板だから、やってみたら」。そして、「ジーンズも 買えば? しゃれた奴」。「分かった。ありがとう」。バスに乗り込む姉を見送るシモン(1枚目の写真)。シモンが「上」に行って一仕事して戻って来ると、姉が新品のジーンズをはき、電子レンジの箱と一緒に待っている。珍しく、寄り道せずに帰って来たのだ。シモンに気付き、立ち上がって、ことさらにジーンズを見せる姉。シモンが口笛を吹く。「で… どう思う?」。「回ってみてよ」(2枚目の写真)。「いいね。いいお尻してる」。「このバカ」。その後、アパートに向かいながら、「大回転、幾らで売れた?」とシモンが訊くと、「知らない」。「知らないって、何だよ? 残りのお金 返せよ」。「新しい電子レンジで 十分でしょ」。シモンのお金でジーンズも、家電も買っておいて、シモンのものは何一つなし。勝手な言い分だ。それでも反論しないシモン。翌朝、アパートでシモンが電子レンジをセットしている。そこに、上半身裸の男が現れる。前夜、BMWの男が部屋にやってきて、一晩姉とセックスしたのだろう。キッチンに立てかけてあるたくさんのスキー板を見て、シモンに「あの板、どうするんだ?」と訊く。「見切り品。転売するんだ」。「いい品だな」。シモンは、さっそく「値引きしてもいいよ」と持ちかける。「スキーの腕はどのくらい?」。そこに姉が起きてくる。「君の弟は、俺に板を売ろうとした」。「この子、これで小遣いを稼いでるの」。男に、「いつもは、どこに住んでる?」と訊かれ、シモンは、仕方なく「両親の家」と答える。「遠いのか?」。「かなり」。「ウチの家族、ちょっとブロンクスみたいなの。この子も、行ったり来たり」〔ニューヨークのブロンクス地区は、危険地帯の代名詞として使われている〕。シモンは、「ホントだよ。ウチの家族はクソなんだ」と言って笑う(3枚目の写真)。これは、自分と姉のことを指した本音。だから、この笑いは寂しい。
  
  
  

この映画のクライマックス・シーン。男が自分のBMWを、姉に運転させている。姉は、免許を持っていないので、歩道で半クラ状態でエンジンを空ぶかししながらガタガタと走らせている〔車が傷む〕。こんなことをさせるとは、男は余程、姉が気に入ったのだろう。シモンが歩いて見に行くと、男は、「一人で 苦労させる方が、早く上達する」と言う(1枚目の写真)。そして、シモンを見て、「BMWに乗ったことあるか?」と訊く。「ううん、一度も」。姉の運転する車がやって来ると、男は後部座席のドアを開け、「さあ、乗れよ」とシモンに声をかける。姉は「邪魔になる」と反対するが、男は「何もしないさ」と乗せる。シモンは大喜び。男は、車を中古車販売場に乗り入れる。そして、小型のトヨタ車に1500フラン(14万円)と書いてあるのを見て、「手ごろじゃないか」と姉に言う。「どうやって払うの?」。「2人で何とかしよう」。つまり、男は姉が気に入ったので、車まで買ってやるというのだ。シモンは、「トヨタだ。壊れないんだよ、嘘みたいに」と言い、「車体の下を見てくる」と点検に行く。因みに、この車、前に紹介した『Venner for livet(友だちを守って)』の最後に出てくるトヨタ車とよく似ている。あの映画では、「車がポンコツだったので」という台詞があり、酷評したものだが、こちらのシモンは正当な評価を下している。シモンが車をチェックして、ふと振り返ると、BMWの車内では姉と男が楽しそうに話している。その脇を、猛スピードでスイス~イタリア間の国際列車が通過して行く(2枚目の写真)。この瞬間、シモンの中で、何かが変わった。帰りの車の中でもラヴラヴの2人。白けるシモン。そして、姉をちらと見ると(3枚目の写真)、決定的な一言を口にする。「これは姉さんじゃない、母さんだ(C'est pas ma soeur, c'est ma mère)」。男:「何て言った?」。同じ言葉をくり返すシモン。「何 言ってるんだ、君の弟は? ルイーズ、何て言ったんだ?」。同じ言葉を、さらにくり返すシモン。「いったい何なんだ? 何か言えよ、ルイーズ!」。ようやく口を開いた姉。男には、「ガキのたわ言よ」「連れて来なきゃ よかった」と言い、シモンには、「たわ言なんか、おやめ」と叱る。男は、納得しない。「俺を どうする気だ? この茶番は何だ?」と車を道路脇に停める。そして、シモンを見て、「その作り話は何だ? そのバカげた話は何だ?」と問い詰める。姉:「あたしを困らせたいのよ」。シモン:「そんなのウソだ!」。姉は、破れかぶれになり、「話すつもりだった。それがどうしたの?」と男に泣きつく(4枚目の写真)。「それがどうした、だと? お前は狂ってる。2人ともだ!」。そして、シモンに、「すぐ降りろ。顔なんか見たくない」。姉には「お前もだ」。姉:「話すつもりだった。信じて」。男:「いつ 話すつもりだった? 話そうとしただと? 話したのはあいつだ。お前は完全に異常だ。出てけ」。2人を置き去りにして、車を出す男(5枚目の写真)。男としては当然だろう。もし、シモンが16歳頃に産んだ子だとしても、女性は30歳近くになっているわけで、ハイ・ティーンのはずの「姉」とはひと回りも年齢が違うからだ。なお、あらすじでは、以後、「姉」の呼称をやめ、「母」とする。
  
  
  
  
  

アパートから離れた場所で置き去りにされた2人。道路沿いに歩いて帰るしかない。シモンが「あんたの責任だ」と言うと、「なぜ あんなことしたの? なぜ今、言わなくちゃいけないのよ?」と姉も怒る。そして、取っ組み合いの喧嘩に。「あんたは重荷だった。12年間ずっと!」(1枚目の写真)。「ちゃんと聞いてるの? あんたなんか、どうでもいい」。憎しみを込めて言い放つと、再び別々に歩き始める。シモンは、「重荷なのは、あんただろ! なんにもできない。そのジーンズだって、僕が払ったんだ。聞いてるか?」と逆襲する。それでも、一応、シモンもアパートに入れてもらえる。キッチンのベッドで寝ていて、急に寂しくなったシモンは、母の部屋のドアをノックする。そして、ドアを開けて、「いっしょに寝ていい?」と訊く。「ダメ」。「どうして?」。「ダメだから」。「じゃあ、100フラン払ったら?」。返事がないので、「150」と言うと、母は、「おかしいんじゃない? 出てって」と命じる。シモンは、出て行き、「20… 50…」とお金を数えながら、再び部屋に入って来る。最後に180フランに達し、もう一度、「一緒に寝ていい? どうだい、姉貴」と訊く(2枚目の写真)。母は、現金の山を見て「200」(19000円)と言う。シモンは、バッグを逆さまにして小銭を集めるが足りない。すると、母は「渡して」と言い、お金を受け取ると、「おいで」とシモンを呼ぶ。母の隣に寝ても、母が背を向けているので、「少し抱いてくれる?」「頭をのせていい?」と頼む。母は、ようやく、わが子にするように、シモンの頭を撫でるが、藪から棒に「要らない子だった」と打ち明ける。「じゃあ、なぜ育てたの?」。「知らない… 孤独はイヤ。それに、うんざりしてた」(3枚目の写真)。「みんなが、育てるなって言った」。「みんな?」。「一人残らず」。シモンは、要らない子だったが、育ててくれたのは母のお陰だと知り、「さっきのお金 マジだからね。あげるよ」「それに、弟の方がぴったりだ」と声をかける。こうした殊勝なシモンの想いとは裏腹に、シモンが眠ると、母は180フランを持ってアパートを抜け出す。そして、翌朝、野原の真ん中で泥酔して倒れているところを、近所の子供たちに発見される。呼ばれて、駆けつけるシモン(4枚目の写真)。子供たちに頼んで、全員で担ぎ上げ、アパートまで運ぶ。服を改めると、お金はどこにもない。シモンの手元にあるのは小銭が少々。これでは、「上」に行って稼ぐしかない。
  
  
  
  

シモンは、弟分と一緒にゲレンデへ行き(1枚目の写真)、子供用のグッズを狙わせる。そして、盗んだ子供用のスキー板を何本もイギリス人の従業員のところに持って行くと、10歳の子供にこんなことをさせてと叱られ、一切の買取を拒否されてしまう(2枚目の写真)。仕方なく、盗んだ板を全部雪に埋めて隠す。収入源を断たれた2人は、子供専用の荷物置き場から、バッグの中の財布をかき集め、トイレの個室に2人で籠り、片端から小銭を取り出しては、小銭入れを便器に捨てる。わびしい収入だ。さらに、臭いトイレの中でもお腹は空く。「サンドイッチちょうだい」。「パテかチーズか?」。「他にはないの?」。「他のは、持ち帰る」。「お姉さんに?」。「知ったことじゃないだろ?」。「お姉さん、何の仕事してるの? 売女か何かなの?」。怒ったシモンに腕で強く押される。「僕じゃない、兄さんが言ったんだ」。こんな子供でも知っているほど、姉の噂は広がっているのだ。その時、ドアが強く叩かれる。「開けろ! 外に出ろ!」。2人が黙っていると、鍵が開けられ、責任者が入って来る。逃げようとするが捕まり、雪の中から掘り出したスキー板を見せられ(3枚目の写真)、大事なパスも没収されてしまう。そして、「チビのゴミは、ゴミと一緒だ」と言われ、ゴンドラではなく、ゴミ用の輸送ボックスに乗せられ、「こいつらには、二度と来させん。ブラックリストだ」と送り返される。
  
  
  

お金に困ったシモンは、これまで貯めていたスキー板、ヘルメット、ゴーグルなどを国道沿いに持って来て、安売りしようとするが、スキーとは縁のない通過車両は見向きもしない。全く売れなくて意気消沈するシモン(1枚目の写真)。そこに、母がやって来る。昨夜渡した全財産を飲んでしまった母、そのお陰で、無理した挙句に「上」からも追放されてしまった。母への怒りが燃え上がる。「やめなさい」という母に対し、「来るな」「ほっとけよ。あっちへ行け」「邪魔だ」「失せろ!」「遠くに、行っちまえ!!」と激しい言葉を投げつける(2枚目の写真)。しかし、そのまま暗くなっても全く売れない。母も辛抱強く、近くで待っていてくれる。シモンは、仕方なく、アパートに戻る。お金がないので、いつかスキー板を売った友だちの部屋に行き、「何か食べるものない? 僕たち 何もないんだ」と夕食を無心する。持って帰るとと、母が、「何か作るわ」と料理を始める。それを、意外そうな顔をして眺めるシモン(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、母は、改心したように、真面目に働き出した。掃除婦として、リゾートの別荘の退去時に、クリーニングのサービスをする会社に雇われたのだ。仕事にシモンを同行させる母。一緒に清掃に入った別荘で、しばらくすると、持ち主が帰ってくる(借りているだけかもしれない)。その女性は、かつてシモンが「上」で2回会い、「僕の両親はホテル 持ってます。とっても大きいホテル」と嘘をついた人物だった。彼女は、シモンの母を見つけると、「お嬢さん、赤ちゃんの面倒を5分だけ 見てて下さる」と頼む。赤ちゃんがウンチをしたので、母が紙オムツを交換していると、そこにシモンがやって来る(1枚目の写真)。シモンは、赤ちゃんの足にキスをしてあやす母の意外な一面を見て驚く。「交換できるの?」。「当たり前でしょ」。母は、ウンチの入ったオムツを、「持ってて」とシモンに渡そうとする。「臭いよ」。「あんたのも、臭かったのよ」。その時、持ち主が、「男の子は、荷物運びを手伝ってくれる?」と部屋に入って来て、シモンと顔を合わせる。気まずい思いをするシモン。母は、「何してるの? 手伝いなさい」と言うが、シモンは躊躇する。しかし、行かないわけにはいかないので、荷物を持って自動車まで運んで行く(2枚目の写真)。「今は、掃除係りなの?」。これは、かなり意地悪な言い方だと思う。「姉が掃除を。僕は手伝いです」。「両親は、今日もホテルで忙しいの、ジュリアン?」。「僕はジュリアンじゃありません。シモンです」。「どうでもいいわ」。冷たく見放した夫人に対し、なぜか、シモンは思い切り抱きつく。「ごめんなさい。許して下さい」(3枚目の写真)。夫人は、硬い顔をして、それでも、シモンの頭を抱いてやる。しばらくして、「もう、いいでしょ(Ça suffit)」と離れる。「Ça suffit」には、「もうたくさん/いいかげんにして」というニュアンスがあるので、シモンに対する不信感が消えていないことが判る。シモンは母のところに行くと、「ねえ、行こうよ」とせがむ。「何か あるの?」。「何も」。「どこで奥さんと知り合ったの?」。「それどうかしたの?」。そこに夫人がやって来て、「あの子を、ここに来させて」と命じる。シモンが来ると、「浴室に置いてあった腕時計がないの。持ってる?」と尋ねる。「いいえ」。母が、「ポケットを空に」と命じ、シモンが中味を出して見せる。「それで全部? ホントに?」。母は、自らシモンのポケットに手を入れて探る。そして、ズボンの隠し場所から腕時計を引っ張り出す(4枚目の写真)。母:「このバカ」。夫人は、2人に向かって、「今すぐ、出てって」と冷たく言い放つ。
  
  
  
  

アパートの前の土の原っぱで、取っ組み合いをする母子(1枚目の写真)。「あんたなんか 要らない!」と言って、母はアパートに向かう。アパートに戻り、土で汚れた服を洗濯機に入れるシモン。パンツだけになると、窓辺で呆然と腰を下してる母のところに行き(2枚目の写真)、汚れた服を脱がす。洗濯中、じっと待つ母子。母は息子と反対側を見つめ、その母をシモンが見つめている。長い無言のシーンだ。2人の心に去来するものは? 絶望? 後悔? むなしさ?
  
  
  

恐らく4月頃、シモンは、ロープウエイが閉鎖される日に、久しぶりに山頂を訪れる(1枚目の写真)。駅舎の建物内は、最後の後片付けをする従業員でごった返している。それでも、「お前、また 来たのか?」とか、「見ろよ、チビ泥棒がいるぞ」と顔は割れている。シモンは一人の男に、「どこへ行くんです?」と訊いてみる(2枚目の写真)。「働ける場所。ここは 終わった」。「僕も行けます?」。「幾つだ?」。「15です」(相当サバを読んだ返事だ)。「何がしたい?」。「何でもできます」。男はお義理で訊いただけで、相手にしてくれない。しかも、ブラックリストに載せた責任者に見つかってしまい、「お前か。また来たのか。懲りない奴だ。とっとと、出ていけ」と追い払われてしまう。最後のロープウエイが出て、誰もいなくなった山頂で、所在なげに時間を過ごすシモン。夜になり、真っ暗な中で 涙にくれる(3枚目の写真)。将来への絶望感からか? そう言えば、クリスマス・シーズンから4ヶ月、母子はどうやって暮らして来たのだろう? 母は心を入れ替えて働いたのだろうか? ならば、どうしてシモンは出稼ぎに行きたがったのだろう?
  
  
  

この映画、エンドクレジットを除く最後の4分間、台詞は全くない。早朝、展望台でひと時を過ごしたシモン(1枚目の写真)は、ロープウエイが停まっているので、歩いて斜面を降りて行く(2枚目の写真)。そして、まだ動いているローヌ河谷へ降りるロープウエイに乗り込む(3枚目の写真)。しばらく乗っていると、上がってくるゴンドラがある〔日本と違い、乗客のある時だけゴンドラが出る〕。シモンがゴンドラを見ると、そこには母が乗っている(4枚目の写真)。自分を心配して捜しにきてくれたのだ。ゴンドラとともに去って行く母をじっと見つめるシモン(5枚目の写真)。このシーンは、「ひょっとしたら、この母子はちゃんとした関係を築いていけるかもしれない」という、淡い期待を抱かせる。
  
  
  
  
  

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